先日、司法書士試験の願書をもらいに、久しぶりに「都会」へ出向いた。
都会、といっても別に東京のど真ん中みたいな話ではない。
でも、普段の生活圏が割と落ち着いた場所にあると、法務局があるエリアってだけで、なんとなく「都会感」が出てくる。
司法書士の願書というのは、もちろん郵送でも取り寄せられる。
田舎の人なら、郵送一択だろう。
わざわざ交通費をかけて取りに行く必要もないし、移動するだけで半日が終わる。
逆に、法務局の近くに住んでいる人なら、散歩ついでに取りに行けるだろう。
問題は、私みたいな人間だ。
「郵送するほど遠くはない」
「でも、行くには微妙に面倒くさい」
という絶妙な距離感。
これが一番悩ましい。
郵送で済ませるべきなのか。
いや、でも、せっかくなら実物を早めに手に取っておきたい。
書類は目で見て確認した方が安心だし、何より“いよいよ始まる感”が出る。
そう思って、結局、行くことにした。
さて、出発してからふと思った。
法務局って、駅からちょっと歩くんだよな…。
そして今日に限って、やたら天気がいい。
空は青い。
風も気持ちいい。
こういう日は本来、散歩日和なのかもしれない。
……が、私は散歩したいわけではない。
汗をかきたくない。
これが正直なところだ。
夏が近づくと、徒歩移動はそれだけで「小さな試練」になる。
まだ5月前とはいえ、日差しは意外と強い。
歩けば汗が出る。
汗が出れば、なんとなく気分も乱れる。
そして帰ってきたら、妙に疲れてしまう。
勉強する体力が削られる。
司法書士受験生にとって、体力と集中力は資産である。
無駄な消耗は避けたい。
そこで私は、あることを思いついた。
「そうだ、LECに寄ろう。」
日頃、私は通信でLECにお世話になっている。
動画講義を見て、テキストを読み、問題を回し、Webで確認する。
完全に自宅中心の勉強スタイルだ。
だからこそ、たまには“リアルなLEC”に行ってみるのも悪くない。
駅前にLECの校舎があるのは知っていたし、都会へ出たついでに寄るのは合理的だ。
そして、もし願書のことや申込のことなど、何か聞けるなら聞いておきたい。
そんな軽い気持ちで、駅前のLECへ向かった。
到着して、ビルを見上げて、私は固まった。
……閉まってる。
まさかの、火曜日は定休日。
が~~~ん。
なぜ今日に限って。
こういうの、ある。
せっかく都会まで来たのに。
せっかく「ちょっと寄っていくか」という気分になったのに。
定休日という現実が、私のテンションを容赦なく削る。
なんというか、受験勉強って、こういう小さな“空振り”が地味に効く。
「あ、今日はうまくいかない日なんだな」
みたいな、根拠のない不安がふわっと出てくる。
でも、ここで引き返すわけにもいかない。
すると、受付のところに人がいた。
定休日なのに?と思ったら、どうやら受付のお姉さんが対応してくれるらしい。
おお…優しい…。
完全にシャッターが閉まっていて、誰もいないと思っていたので、これはありがたい。
そして私は、LECの会員として、手続きをお願いすることになった。
そこで聞かれたのが、
「会員番号わかりますか?」
である。
会員番号。
この瞬間、私は少し余裕の笑みを浮かべた。
なぜなら私は準備していたからだ。
普段、PCのOUTLOOKで、会員番号が書いてあるメールをピン止めしている。
いつでもすぐ見られるように、一番上に固定してある。
「ええ、ありますよ」
と、スマホを取り出し、颯爽とメールを開こうとした。
そして私は、次の瞬間に気づいた。
……あれ?
ピン止めされてない。
メールが普通に流れている。
しかも、最近の通知が大量に溜まっていて、会員番号のメールがどこにあるのか全然わからない。
私は急に焦り始めた。
「えーっと…確かここに…」
いや、ない。
「あれ?あれ?」
出てこない。
私は、スマホをスクロールしながら、おたおたし始めた。
そして、ようやく理解した。
ピン止めはPCのOUTLOOKであって、スマホのOUTLOOKでは同じように固定されていなかったのだ。
……なんでだよ。
いや、考えれば当たり前なのかもしれない。
でも、こういう時、人間は「当然同期されてるだろう」という謎の思い込みをしてしまう。
その思い込みが崩れた瞬間、脳内が軽くパニックになる。
受付のお姉さんが、穏やかな顔で待ってくれている。
その優しさが、逆にプレッシャーになる。
「早く出さなきゃ…」
でも見つからない。
こういう時ほど、メールは見つからない。
そして、なぜか「今この瞬間に限って」スマホの動きも鈍い気がする。
焦りは判断力を奪う。
受験生の敵は、民法でも会社法でもなく、焦りなのかもしれない。
そんなことを思いながら、私は内心汗をかいていた。
結局、受付のお姉さんが言ってくれた。
「電話番号でも検索できますよ」
……神か。
そうだった。
会員番号を必死で探す必要はなかった。
お姉さんが電話番号で検索してくれて、すぐに情報が出た。
助かったぁ。
その瞬間、私は心の中で深く頭を下げた。
「ありがとうございます…!」
そして同時に、自分のスマホ操作の弱さを反省した。
帰宅してから調べてみると、OUTLOOKには「フィルター」機能があるらしい。
なるほど。
検索すればよかったのか。
あるいは、重要メールを「スター」マークで管理しておけばよかったのか。
つまり、私は
「PCのピン止めに頼りすぎていた」
ということになる。
便利な仕組みに慣れると、それが使えない場面で途端に弱くなる。
これは勉強にも似ている。
テキストを読んで理解したつもりでも、問題形式が変わった途端に解けなくなる。
講義で聞いた表現で覚えていると、条文の言い回しに触れたときに混乱する。
つまり、表面的な便利さに頼りすぎると、本質が揺らぐ。
今回の出来事は、そんな教訓も含んでいた気がする。
そして、いよいよ思う。
5月になったら申し込みかぁ。
願書を手に取っただけで、急に現実味が増す。
模試も始まる。
答練も始まる。
周囲の受験生たちが、一斉にギアを上げる季節がやってくる。
「いよいよだな」
という気持ちが、じわじわと胸の奥から湧いてくる。
この“じわじわ感”が怖い。
でも、同時にワクワクもする。
正直、私は今でも
「本当に間に合うのか?」
と思う瞬間がある。
勉強をしていればするほど、自分の穴が見えてくる。
見えてくるから不安になる。
民法をやっていても、会社法をやっていても、民訴をやっていても、
「え?これも覚えるの?」
というポイントが無限に出てくる。
でも、願書をもらいに行って、現物を手にして、都会の空気を吸って、LECの受付のお姉さんに助けてもらって、
その帰り道にふと思った。
ああ、もうここまで来たんだな、と。
願書をもらった時点で、もう後戻りはできない。
いや、できるのかもしれない。
でも、やらない理由はもうない。
受験というのは、不思議なものだ。
机の上で勉強しているだけだと、いつまでも「準備している感」が抜けない。
しかし、願書をもらうとか、模試の申込が始まるとか、そういう“現実のイベント”が来ると、一気に気持ちが引き締まる。
こういう節目は大事だ。
自分の中のスイッチを押してくれる。
「はい、ここから本番モードですよ」
と、世界が言ってくる感じがする。
ちなみに、今回の教訓は二つある。
一つ目。
火曜日はLECが定休日の場合があるので、事前に確認すること。
二つ目。
会員番号はスマホでもすぐ出せるようにしておくこと。
この二つは、次回から必ず改善したい。
……受験勉強よりも、こういう生活スキルの方が先に改善されるかもしれない。
でもまあ、それも悪くない。
願書をもらいに行っただけの話なのに、意外といろんなことを感じた一日だった。
都会はやっぱり人が多い。
歩くだけで疲れる。
汗をかきたくないと思ったのに、結局少し汗をかいた。
でも、それも含めて、受験の季節が始まったんだと思う。
5月になれば申し込み。
模試が始まり、答練が始まり、周りも本気になる。
そして私も、さらに本気にならないといけない。
願書を手にした今、もう逃げ道はない。
いや、逃げ道は最初からなかったのかもしれない。
よし。
いよいよだ。
ここからが勝負。
そんなことを思いながら、帰りの電車に揺られていた。


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