【司法太郎の会社法ノート】設立時募集株式と払込期限の落とし穴

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今日は、会社法の中でも「一度つまずくと、ずっとモヤモヤが残る条文」ランキング上位に来るであろう、会社法63条3項について書いてみようと思います。

(まだ受験生なので、正しいかどうかは自信ないので、ご利用は自己責任で・・・)

テーマはズバリ、

「払込みをしないときは権利を失うはずなのに、なぜ条文には『払込みをすることにより権利を失う』と書いてあるのか?」

という問題です。

司法書士試験の勉強をしていると、誰もが一度はここで立ち止まります。私自身も、初めて読んだときは思わずテキストを閉じました(笑)。

問題の条文(会社法63条3項)

条文はこうです。

「設立時募集株式の引受人は、第1項の規定による払込みをしないときは、当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利を失う。」

…どうでしょうか。

「払込みをしないときは」と言っているのに、 「払込みをすることにより権利を失う」

この日本語、素直に読むとかなり混乱しますよね。

「え?払ったらダメなの?」 「じゃあ払わなかったらどうなるの?」

と、頭の中が疑問符だらけになります。

結論を先に言います

まず結論から。

この条文が言いたいことは、とてもシンプルです。

「設立時募集株式は、払込期限を一度でも過ぎたら終わり。あとで払っても、株主にはなれない。」

これだけです。

つまり、

・期限までに払った → 株主になれる ・期限までに払わなかった → その時点でアウト

という、極めて厳格な世界だということです。

時系列で考えると一気に理解できる

条文が分かりにくい原因は、「時間の流れ」が頭に入っていないことにあります。

そこで、時系列で整理してみましょう。

【① 払込期日まで】

この段階ではシンプルです。

・払えば → 株主になる ・払わなければ → 次の段階へ

【② 払込期日が経過した瞬間】

ここが最大のポイントです。

払込期日を過ぎた瞬間、63条3項により、

「株主となる権利」そのものが消滅します。

まだ払っていない、という事実よりも、 「期限を守らなかった」という事実が決定的なのです。

例えるなら、

映画館に入るためのチケットを持っていても、上映時間を過ぎたら入場できない。 後からチケットを出してもダメ。

そんなイメージです。

【③ 期限後の世界】

ここで多くの人が疑問に思います。

「じゃあ、期限後に払ったら?」 「じゃあ、期限後に払わなかったら?」

答えはこうです。

・期限後に払った → 株主になれない ・期限後に払わなかった → もちろん株主になれない

結論は同じです。

つまり、63条3項は、 「払ったらダメ」と言っているのではなく、 「期限を過ぎたら、払っても意味がない」と言っているだけなのです。

じゃあ責任は何もないの?

ここまで来ると、次の疑問が自然に湧いてきます。

「払わなかったのに、何の責任も負わないの?」

これも大事なポイントです。

設立時募集株式は、会社成立前の特殊な場面です。 そのため、一般的な契約不履行のように、

「払わなかったから損害賠償だ!」

という構造にはなっていません。

63条3項は、

・株主になる権利を与えるか ・与えないか

を画する規定であって、 払込みを強制する規定ではありません。

結果として、

・払込期限を守った人 → 株主 ・払込期限を守らなかった人 → 何者にもならない

という、非常に割り切った世界が成立します。

なぜこんな回りくどい書き方なのか

最後に、なぜ条文がこんな分かりにくい表現になっているのか。

それは、

「期限を過ぎたという一瞬の事実」よりも、 「その後に払ってもダメだ」という結論を、 はっきり書きたかったからです。

立法者は、

「後で払えば何とかなるんじゃない?」

という甘い期待を、ここで完全に断ち切りたかった。 その結果、

『当該払込みをすることにより、株主となる権利を失う』

という、一見逆説的な日本語になったわけです。

まとめ(試験用フレーズ)

最後に、試験用に一文でまとめます。

「設立時募集株式は、払込期日徒過により株主取得の可能性が消滅し、追完は認められない(会社法63条3項)。」

ここまで理解できれば、この条文はもう怖くありません。 むしろ、ひっかけ問題が来たらニヤリとできるはずです。

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