AI時代における司法書士・弁護士の立ち位置とこれからのリーガルテック

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近年、AI、とりわけChatGPTのような生成AIの進化が目覚ましく、各業界で「AIに仕事を奪われるのではないか」という不安が広がっています。司法書士や弁護士といった法律の専門職も例外ではありません。
実際、六法全書や判例データベース、さらには法務局が公表する指針や手続きマニュアルをAIに学習させれば、かなりの範囲で「法律相談に近い回答」を導き出すことが可能になります。となれば、従来は専門家の専売特許であった知識提供の部分がAIによって肩代わりされてしまうのではないか、という懸念が生まれるのも無理はありません。

しかし一方で、司法書士や弁護士は「資格」という法律上の保護を受けている職業でもあります。つまり、いかにAIが高度化しても、実際に登記申請や訴訟代理といった法的効力を持つ行為を行えるのは、資格を持った人間に限られています。この「資格による保護」が、リーガルテックの進展の中でも専門職を守る最後の砦となっているのです。


研究職・市場調査との比較

では、どの職業がAIによって真っ先に置き換えられるのでしょうか。私が思うに、最も影響を受けるのは「理論的研究」や「市場調査」といった、パソコンの前で完結してしまう分野の仕事です。

研究職といっても、すべてがAIで代替されるわけではありません。実験室で手を動かす研究はまだ人間の領域にとどまります。しかし、既存データを集め、シミュレーションを行い、論文やレポートをまとめるといった「机上の研究」は、まさにAIの得意とする分野です。ChatGPT-5などは、この領域で人間を凌駕するスピードと網羅性を発揮しつつあります。

市場調査も同様です。すでに公開されている情報を集め、分析し、報告書を作る仕事は、AIにとっては格好の舞台。大量のデータを瞬時に処理し、グラフや要約を生成する能力は、人間のアナリストを大きく上回る可能性があります。しかも、これらの職業には法律的な資格制度による保護がほとんど存在しません。そのため、技術革新の波をもろに受けやすいのです。


医師・弁護士・司法書士は守られている?

これに比べると、司法書士や弁護士、そして医師は「法律で守られた職業」と言えます。

たとえば医療分野では、血液検査キットのようなサービスがあります。実際には機械が数値を出しているだけですが、それを患者に直接返すことは許されません。必ず医師が「診察」という形で介在しなければならないのです。そこには「診断は医師のみが行える」という法律上の枠組みがあるからです。

法律の世界も同じです。AIが六法を読み込み、登記申請書のひな形を作成することは可能です。しかし、その書類を「代理で提出する」ことができるのは司法書士に限られています。また、訴訟での代理人となれるのは弁護士だけです。たとえAIが人間以上に正確な法的助言を与えられるようになったとしても、「これはあくまでも参考意見」という立場にとどまらざるを得ないのです。


当面は共存の時代へ

もちろん、将来的には法制度が変わり、AIがより大きな役割を担う可能性は否定できません。しかし、少なくとも私たちが生きている間に「弁護士や司法書士がAIに完全に取って代わられる」状況が訪れるとは考えにくいのです。

むしろ現実的なシナリオは、「リーガルテック企業」と「資格保持者」との間での綱引きです。AIが作成した契約書のドラフトを、人間の弁護士が最終チェックする。AIが示した登記手続きの流れを、司法書士が現場で実行する。そうした「AI+資格保持者」という二層構造がしばらくは続いていくでしょう。

このバランスの中で重要なのは、資格保持者が「AIに任せられる部分は効率的に任せ、人間にしかできない判断や交渉に注力する」ことです。たとえば依頼人の状況をくみ取り、最適な解決策を一緒に模索すること。裁判や交渉の場で、感情や人間関係を考慮に入れて戦略を立てること。これらは、まだAIが苦手とする領域であり、資格者の真価が問われる部分です。


リーガルテックの未来を見据えて

AIは法律分野においても確実に進化を続けています。契約書レビューや登記書類作成の補助、判例検索などは、すでに人間の専門家に匹敵する精度に達しつつあります。しかし、その利用はあくまでも「補助的」な位置づけにとどまるでしょう。

資格によって守られた専門職と、資格を持たないリーガルテック企業。この両者のせめぎ合いが、これからの法務業界の姿を形作っていくはずです。いずれ制度が変わる日が来るかもしれませんが、それは一朝一夕の話ではなく、時間をかけた社会的議論と制度設計の上に成り立つものです。

少なくとも今を生きる私たちにとって、司法書士や弁護士といった資格職は、AIに取って代わられるのではなく、むしろAIをうまく活用してその価値を高めていく立場にあると言えるでしょう。


まとめ

AIの進化は止められません。研究や市場調査のようにデータ分析に特化した仕事は、確かに大きな影響を受けるでしょう。けれども、資格によって守られている司法書士や弁護士は、当面その立場を失うことはありません。むしろAIを味方につけ、より効率的かつ的確に依頼人に寄り添える存在へと変化していくチャンスが広がっています。

これからの時代は「AI vs 人間」ではなく、「AIと人間の共存」。リーガルテックの進化とともに、資格保持者がどのように自分の価値を再定義し、活かしていくのか。その姿を見届けていくことが、私たちの未来を考える上で大切なのだと思います。

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